寝台特急の旅 その5 


  寝台特急 日本海  シングル(A寝台個室)乗車記 (2007.12.7乗車)

日本海 青森到着 7月にトワイライトエクスプレスで通った鉄路を、反対方向の大阪から青森まで辿ってみた。季節は夏から冬へと移ろい、中越沖地震によって2ヶ月間寸断されると言う大災害も経て、緑の大地は白銀の世界に変わった。
 太平洋岸に住む者にとって、日本海縦貫線を通過する事自体が極めて稀な事であり、大いなる旅情をもたらしてくれる。
 闇の中に横たわる漆黒の日本海をぼつねんと眺め、ところどころに点在するわずかな灯を追うとき、人の世の暖かさを感じずにはいられない。
 寂しい一人旅の、その静寂の中にまた帰ってきたと言う懐かしさと安堵。こんな旅を何時まで続けられるのだろうか。
上写真:大阪から青森まで牽引したEF81 連結器が外され回送される。後方八甲田丸
下写真:「日本海」全景 一直線のブルーのラインは美しい

 2007年12月6日大阪発青森行「日本海1号」に乗車。前夜の「北陸」に引き続いての乗車であった。二日続けての夜行列車は初めて。疲労困憊してしまうのではないかという心配は全く無い。個室寝台ならいくらでも、どんな格好でも眠れる。14時間の私だけの動く空間は、私にとって最上の旅。
12両編成で1両だけ連結されている個室、A寝台シングル。「北斗星」「トワイライトエクスプレス」のロイヤルと比べると約半分の広さだが、この広さで十分楽しめる。
B寝台ソロより若干広い床面積だが、高さは2倍、窓も大きく洗面台、TVが付く。
18:22京都駅一番線に到着。
帰宅する通勤客でごった返している時間。通勤客の目の前に停車する。
ブラインドを開けたまま窓際に居れば、内も外も目が合わないよう努力しなければならない。
当然浴衣なんか着ていられない。
室内の照明を消し、ブラインドを開けたまま窓から一番遠避かり、通路際の壁に寄りかかって写した。
下り特急に抜かされた。
とにかくよく抜かれる。
大阪から金沢まで特急「サンダーバード」なら2時間40分で行くところを、4時間近くかけて走破する。
夜は長い。別に早く行ってもらわなくても良い。
ゆっくりとした列車で、ゆったりと過ごす。
時間を買っているようなものだ。ものすごく贅沢なのかも知れない。
20:26福井到着。
今日の午前中ここで降り、写真のアーケードを抜けたところでバスに乗り、永平寺まで行って来た。
12時間も経っていないのに、遥か昔の事のよう。
浴衣姿でのんびり。
「あけぼの」のシングルはベットを起こすとソファーになるが、こちらはベットに座り背当てと肘掛は別に付く。
一長一短だが、「あけぼの」では座面が低くなり、窓から首だけしか出ない。社外から見たらさらし首みたいだろう。
景色が良く見えるということで、私は「日本海」式を好む。
21:32 金沢駅着
今朝6:34に「北陸」から降り立った駅。
まだまだ勤め帰りの人が多い。
22:20富山着
流石に人が少なくなってきた。
富山から約20分、40年前に2年半住んだ滑川を通過。
ホタルイカ、蜃気楼で有名なところ
室井滋の出身地
通過する夜中の列車からよく撮れたと思う。
糸魚川着
勾玉のオブジェが見える。ヒスイの産地らしい。
40年以上前に降りた事があったはずだが、こんな小さな駅だったかと思う。
大都会の駅に慣れてしまったからだろうか。地方の駅としては小さくないのかも知れない。
直江津駅
鉄ちゃん発見。
三脚を立てこちらにカメラを向けているので、こちらもカメラを向けてやった。そのときの興ざめした顔。

車両中心のコレクションに乗客が写っていて、しかもカメラを持ち、にぃたぁと笑っていたら、写真の価値は0になってしまうだろう。
本当は同類なのに、ちょっと意地悪だったかな。
 直江津を出ると列車は海岸線に沿い、あるいは国道越しに海を見ながら柏崎へ向う。海は正に漆黒だ。彼方は空に溶け込み境も判別できず、わずかに波打際だけが列車から漏れる光に照らされ、朧に浮かび上がる。耳を澄ますと、列車の通過音に波の音が混じっている。
 部屋の灯りを落とし、暗闇の中の海と対峙すると、恐怖すら覚える。闇の中から得体の知れないものが浮かび上がり、飲み込まれてしまいそうな、はたまた光の無い世界に溶け込んでしまいそうな、そんな恐怖。
 そんな荒涼とした世界で垣間見える遠い人工の灯は、何と暖かなのだろう。この闇夜に外に取り残されたとしたら、一目散に灯りを目指して駆け出してしまう。

 7月の中越沖地震で駅の半分が土砂に流された"一番海に近い駅"「青海川」通過。西半分は真新しいコンクリートに覆われているようだ。流石に暗闇ではどんなことをしようと写真は写らない。
 7日朝、目が覚めると雪国だった
大鰐温泉スキー場が見える。
何度も通った大鰐温泉だが、一度も泊まった事が無い。
このスキー場、経営に行き詰まり全国的に知られるようになった。数多くの有名選手を輩出した名門スキー場なのだが。
ここから見てもかなりの斜度で、初心者は下りられないのではないかと思う。
7:44弘前着
通勤、通学客で賑わい始めた。
浴衣姿で、リアルタイムで、すぐ目の前で都市の目覚めを眺めているのは、不思議な感じがする。
弘前を過ぎると津軽富士、岩木山が左車窓に広がる。
東北では一番美しい独立峰かもしれない。
「あけぼの」の個室シングルは右側のため、この絶景を個室から楽しむことが出来ない。
青森駅到着
一晩過ごした部屋に別れを告げる。
脱ぎ散らした浴衣を見れば、自分の部屋は一目瞭然。
念のため外から忘れ物の確認をする。
  車内設備
 残念ながら「日本海」には花が無い。食堂車もサロンカーも無い。A寝台一両のほかはすべて開放B寝台である。
運行時間帯のほとんどが夜間であり、トワイライトや北斗星のように観光列車的な色合いも出せず、かと言って決して速いわけでもない。同じ時刻に飛行機に乗れば、青森で食事をしてゆっくり休むことも出来るし、ほんの少し早く出て新幹線を乗り継げば、その日のうちに青森まで着いてしまう。
 私だって仕事ならこの列車を選ばない。もう二度と乗ることも無いかも知れないが、この列車の個室に乗ってのんびり過ごすのは私にとって十分楽しい。
車名と号車番号を確かめて乗車
今春には二往復から一往復に減便される。
車内を見て回ったところ、開放B寝台(A寝台1両を除くと個室は無い)の乗車率は50%程度。
「北斗星」「トワイライトエクスプレス」の開放寝台と比べると、決して悪くは無いのだが。
乗車した車両
14系は、4両1ユニットでディーゼル発電機を持ち、電源車を連結しないのが基本。
ただし「日本海」は車載発電機を持たない24系が基本で、車端に電源車カニが連結される。
どこかで余ったオロネ14を持ってきたのだろう。
電源車カニ24
上写真オロネは金帯、こちらは銀帯。
かつては14系、24系、24系25型と編成によって帯びの色は白帯、銀帯、金帯と明確に分かれていたが、流用、改造で揃わなくなってしまったようだ。

フーテンの寅さんもよくブルートレインに乗っていたと思う。ところが乗ったときは白帯だったのに、夜中の通過映像では金帯に変わっていたりするから可笑しい。
そこまで気付く人は少ないと思うけれど。
A寝台個室になると、B寝台個室には無い洗面台が付く。
日常生活では意識しないが、これは結構重宝する。
食事前後に手を洗える、液体をこぼしてもすぐに拭ける。洗面、歯磨きいつでも可能。
何十年も昔、夜行列車が華やかだった頃、駅には大きな流しがあり、十人弱の洗面が可能だった。
それが大きな駅のシンボルのようにさえ思えた。
そうとうくたびれて来ている車内設備。
赤字の寝台特急では更新することも無いだろう。
乗るなら今のうちかもしれない。
TVはVHSのビデオ一体型。この列車に乗るのに、ビデオ持参の人が居るのだろうか。
ブルートレインと言えども車内騒音は程度の差でしかなく、TVもかなりの大音量にしないと明瞭に聞き取れない。隣室とは壁一枚だからそれもできず、TVを見ようと言う気にもなれない。
もっとも面白い番組もやっていないが。
このときは「メトロに乗って」を上映中。見たような見ないような印象に残らなかった。
何ともレトロな室内灯。蛍光灯が普及する前の、昭和30年代初期の車両は皆これに白熱灯だった。
3等車の天井に並んだ丸い照明が懐かしい。
通路側
通路の天井裏が物入れになっている。
 右カーテン裏はドアで、両側の鍵を外すと隣の部屋とコネクティングルームとなる。そんな風に使う人がいるかどうかはなはだ疑問。
 召使を連れた大富豪とか、あるいは密室殺人事件のトリックとしてしか使い道が無いと思うのだが。
 隣室の人が鍵を外し、一生懸命ドアを開けようとしている。うるさいのでこちらからノックし開かないと大声で教えてやった。後で判ったが、20代そこそこの若者。鉄ちゃんくさい。それなら車内設備の下調べをしてから乗れよ。まったく!
A寝台専用のシャワールーム。
トワイライトや北斗星個室の物と同じ。
こちらは車掌さんからカードを貰い、6分間使える。
 個室内シャワーは何度も、合計20分間使えるが、こちらは一回限り。6分で体を荒い、髪も洗うとなるとちょっと忙しい。それでもシャワーが使えるのはありがたい。
 シャワーが使えるかどうかは、前写真左側のパネルに表示される。もっとも11部屋しかないのだからほとんど空いている。
 シャワールームの他に、トイレ使用灯も付いている。これは便利なのか、余計なお節介なのか。たとえば、隣室のドアが開いたような気配がして、トイレのモニターが付く。しばらくすると未だ付いている。もう出たかな、そんな事が気になってしまう。
A寝台通路
 たいていA寝台は編成の端にあり、通り抜ける人もおらず静かだ。
 ただし、車内販売の人が個室を特別扱いせず、来たのか来ないのか注意していないとわからない。トワイライト、北斗星ではそれなりの大声を出してくれ、買いそびれる事もなかった。余計な物まで買ってしまったが。
サニタリーセット
列車名の表示は無い。JR西日本の青いロゴが私には珍しい。
  寝台特急・個室の旅 

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